思春期の子供は報酬に敏感
さまざまな研究から、思春期の子供は大人や小さな子供と比べて、報酬を受け取ることに対して特に敏感であり、それが行動にも大きく影響を与えることが明らかになっています。
ここでは3つの事例を紹介します。
例えば、Cauffmanら(2010)の研究では、「アイオワ・ギャンブル課題」というゲームを用いました。このゲームでは、
- 長期的に見ると得をするカードの山
- 短期的には得をするように見えるが最終的には損をするカードの山
の2種類の山が用意されており、参加者はどちらが有利なのか知らない状態でカードを引いていきます。
研究の結果、思春期の子供は大人や小さな子供に比べて、長期的に有利な選択をする傾向が強いことがわかりました。これは、思春期の子供が「報酬を得ること」に対して特に意欲的であり、それが行動に表れていることを示しています。
また、Geierら(2010)の研究では、「アンチサッケード課題」というテストを用いました。これは、画面に現れた目標から目をそらすことで、反射的な動きを抑える能力を測るものです。
この実験では、
- 単に課題をこなすだけの条件
- 成功するとお金がもらえる条件
という2つの条件でのパフォーマンスの違いを比較しました。
その結果、思春期の子供は報酬がある条件ではより正確に課題をこなせることがわかりました。同様の結果はJazbecら(2006)の研究でも得られています。
さらに、Fignerら(2009)の研究では、「コロンビアカード課題」というギャンブルのようなゲームを使って実験を行いました。
このゲームでは、裏にポイントが書かれたカードをめくっていき、”loss”(損失)のカードを引かなければ、めくった分のポイントを獲得できます。
研究では、
- カードをめくる前に回数を決め、まとめて結果を伝える「冷静な状況(cold条件)」
- カードをめくるたびにすぐ結果を伝える「興奮しやすい状況(hot条件)」
の2種類の条件を用意しました。
その結果、特に「hot条件」では、思春期の子供は大人よりも多くのカードをめくる、つまりリスクを取る傾向が強いことがわかりました。
このように、思春期の子供は報酬があるとより積極的に行動し、時にはリスクを取る傾向があることが多くの研究から示唆されています。
これは、成長過程の中で「報酬を得ること」に対する感受性が特に高まる時期であるためだと考えられています。
しかし、思春期の子供たちの生活の中心は学校です。そこでお金をもらうような場面はほとんどありません。
そのため、金銭などの「物理的な報酬」よりも、友達や先生からの笑顔や賞賛、クラスでの活躍による達成感や優越感など、人との関わりの中で得られる「社会的な報酬」のほうが、より身近で影響力が大きいと考えられます。
実際、科学的な研究においても、こうした社会的な報酬が思春期の子供の考え方や行動にどのような影響を与えるかについて調べられています。
参考文献